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2013年5月30日 (木)

サウンド・オブ・ミュージック ~マリア・フォン・トラップの信仰~

「あなたの一番お気に入りの映画は何ですか?」

私は、このように質問されたら、迷うことなくいつも答えます。

「それは、サウンド・オブ・ミュージックです。」と。

皆様ご存知のように、「サウンド・オブ・ミュージック」は、日本の各世代に広く知られ、愛されてきたハリウッドの傑作ミュージカル映画です。「エーデルワイス」「ドレミの歌」「私のお気に入り」「すべての山に登れ」など、思い出すだけでも心躍る歌の数々に彩られた映画ですね。

私が小学生の時、母から、初めて遅くまで起きてテレビを見る許可をもらったのが、映画「サウンド・オブ・ミュージック」の放映日でした。その日、母は「今日は夜、寝ないでテレビを見ていいからね。」と言い、夜8時にテレビの前に来なさいと言いました。それで私は、とてもうれしくて、ワクワクしながらその時間を待ちました。そして、私が初めて見た「大人の時間のテレビ映画」、それが「サウンド・オブ・ミュージック」だったのです。それは、私が物心が付いてから父に連れられて初めて見に行った特撮映画「ゴジラ対ヘドラ」に次いで、二番目に見た映画でした。

映画「サウンド・オブ・ミュージック」の内容については、皆さんご存知の方々が多いと思います。ナチス占領期のオーストリアにおいて、修道女のマリアが、オーストリア海軍のトラップ大佐一家の子供たちの家庭教師に任命され、美しい邸宅にやってきます。そして、厳格に育てられた子供たちの心を歌と交流で開いていき、家族愛は回復されていきます。やがて大佐とマリアには愛が芽生えて結婚します。しかし、時代はナチス侵攻の時代、トラップ大佐はナチスに抵抗し、家族を連れて自由の国アメリカへと脱出するのです。

この第二次世界大戦の重大な局面における気高い人間の尊厳の戦いを、ブロードウェーミュージカルの美しい音楽と歌が包み、マリアと子供たちの快活な笑顔と美しいオーストリアの景色が癒してくれます。子供たちにも大人気のミュージカル映画だと思いますが、あらゆる世代の大人の鑑賞にも十分に耐える、家族愛と第二次世界大戦における人間の尊厳の勝利を歌った高度で気高い内容です。

世界の映画史上においてもまれにみる傑作に数えられる宝石のような「映画の奇跡」だと、私は言いたいのですが、しかし、映画のもとになった原作本を読まれた方々は、どれくらいおられるでしょうか。

この映画は、ブロードウェーミュージカルがもとになったのですが、このミュージカルの原作は、主人公マリア・フォン・トラップさんの自伝「The Story of the Trapp Family Singers」です。日本では「サウンド・オブ・ミュージック 前篇・後編」(谷口由美子訳・文渓堂)として邦訳が出版されています。

この原作の邦訳は、前篇・後編に分かれており、映画化されたのは、オーストリアからの脱出までを描いた前篇です。後編は、映画には描かれていない、アメリカに移住してからの、身分を捨てて移民となった家族の生活の戦いや葛藤、そして歌を通してアメリカ国民に広く受け入れられていくまでを描いています。

この原作は、修道女だったマリアさんらしい、カトリック信仰に根差した楽観主義に満ちており、オーストリアでの生活と、アメリカに移住してからの生活の中で、信仰がどれほど支えであったかが理解できる内容です。

この原作の邦訳のために、トラップファミリーの長女であるアガーテ・フォン・トラップさんが「日本の皆様へ」と題してメッセージを寄せてくれているのですが、そこにはこう書かれています。

「私たち(家族)の一致した思いは、母マリアが本書ではっきり語ってくれたように、神が私たちを導き、暮らしを支えてくださったことに対する感謝です。これまでの年月、私たちがずっと神を信じ、その信頼に神がこたえてくださったこと、それこそ、いま、皆様が手にしてくださっている本『サウンド・オブ・ミュージック』の真のメッセージだと思っています。」

ハリウッド映画である「サウンド・オブ・ミュージック」は、「アメリカ映画」であり、第二次大戦におけるアメリカの勝利を歌った映画でもあるので、トラップファミリーにとって、カトリック信仰がどれほど重大な要素であったのかは描かれていません。しかし、原作本を読むと、オーストリア時代には、自宅に私的チャペルを作ったり、クリスマスやイースターをたっぷりと楽しんだり、親しいヴァスナー神父さんが家族の合唱の指導をしてくれたり、自宅に神学生たちを寄宿させたり、家族でロザリオの祈りを祈ったりと、カトリック的生活の良き香りに満ちています。トラップファミリーに合唱の指導をし、トラップ・ファミリー聖歌隊の生みの親でもあったこのヴァスナー神父は、後にトラップファミリーと共にアメリカに移住します。

オーストリアを脱出する際には、トラップ大佐が、次のように語ったことが書かれています。

「聖書にこういう言葉がある。『何よりも、まず神の国と神の義を求めなさい。そうすれば、それに加えて、これらのものはすべて与えられる。』(マタイによる福音書6章33節)。今、私たちはこれまで何度も聞いたり、読んだりしてきたこの言葉が、本当にその通りなのか、それを確かめるチャンスに恵まれたのだ。」

マリアさんが本来備えていた修道女らしい楽観主義と開拓者精神は、アメリカ人の気質ともうまく合っていたようで、原作本の後編では、マリアさんがとまどい苦労しながらも、キリスト教精神に根差した自由の国、アメリカをこよなく愛していく様子が描かれています。

アメリカに移住してからのトラップ・ファミリーは、着の身着のままで移住した一家が移民としての貧しさと闘いながら、息子たちが徴兵されたり、トラップ・ファミリー・シンガーズとして歌で生計を立てようと努力する様子が、リアルに、正直に描かれています。しかし、それはまさに、アメリカン・スピリットを体現して精一杯生きようとするオーストリア・カトリック移民の一家のアメリカ人に向けた友情の物語でもあり、当時のアメリカ人が共感し、マスコミなどがこぞって取り上げたこともうなずけます。そして、トラップ・ファミリーは、奇跡のような特別な存在の家族合唱隊として、アメリカで広く認知されていったのです。

戦後、トラップ・ファミリーはバーモント州ストウに家族で住み、自分たちの家を「コア・ウヌム」(ひとつの心)と名付け、農園を運営しながらコンサート活動を続け、訪れる人々を歓迎し続けました。現在も、この場所にはトラップ・ファミリーが運営するロッジがあり、世界中から多くの人々が訪れています。

1970年代には、マリアさんは、アメリカで始まったカトリック聖霊による刷新(Catholic Charisimatic Renewal)にも参加されました。1976年に来日された際には、渋谷・初台教会の聖霊による刷新の集会に参加されています。
当時の聖霊による刷新のニュースレターに、マリアさん来日とマリアさんのメッセージが記録されています。下記リンクからPDFファイルをご覧ください。

http://www.newlifejm.net/ibuki_23_19761128.pdf (「主の息吹き」1976年11月28日号・PDF)

私は最近の映画になかば絶望していて、ほとんど見ないのですが、しかし、映画に神の手が働くことがあったとするならば、それはサウンド・オブ・ミュージックではなかったかと思っています。映画が製作された1960年代は、カトリックでは第二バチカン公会議が開催されている期間でもありました。カトリックに新しい時代が来ることを世界が予感していた時代、この映画は、アメリカから発信したカトリック教会へのメッセージでもあったと思います。

修道女が退会して結婚してしまうエピソード、あまりにもアメリカン・スピリットに満ちた内容は、当時の厳格なカトリックの聖職者を恐れさせ、この映画は危険だという人々もおりました。

しかし、今日においては、この映画は、良きカトリック精神の伝統と香りと、そして気高いアメリカン・スピリットが融合すれば、どれほど美しく気高い精神性が生み出されるのかを時代を超えて示す普遍的古典映画となっています。

そして、そのことは、現在の退廃してしまったアメリカと世界の世俗文化とハリウッド映画の状況への、決定的な警告と神からのしるしとしての価値も示しているのではないでしょうか。

サウンド・オブ・ミュージックは、時代を超えて神からの預言を伝えています。

「アメリカ人よ、世界中の人々よ、カトリックの美しい精神に結ばれ、気高い信仰と愛へと回帰しなさい。それは、真の喜びと自由と平和への道である。」と。

「サウンド・オブ・ミュージック 前篇」(マリア・フォン・トラップ著 谷口由美子訳)Amazon

「サウンド・オブ・ミュージック 後編」(マリア・フォン・トラップ著 谷口由美子訳)Amazon

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「菩提樹」(トラップファミリーを描いたドイツ映画)Wikipedia


※マリアさんの複雑な生い立ちや社会主義無神論に傾倒していた師範学校時代、そして劇的な回心と修道会入り、聖霊刷新への参加などは、自叙伝である「絶妙な道のり」(中央出版社)に詳しいのですが、現在絶版になっており、中古品市場を探すしかありません。この本の原題は「Maria」です。英語で読める方は、ぜひ、原著をお読みください。

「絶妙な道のり」(マリア・フォン・トラップ著 中込純次訳)中古品・Amazon

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